学会発表
学会発表

WEB掲載:2019.07.22
日本獣医麻酔外科学会2019発表

犬の先天性肝外門脈体循環シャントに対し、腹腔鏡手術を行った25例と開腹手術を行った9例の比較検討

○三河翔馬1)2)、重本仁1)、河津充伸1)、小林1)、斎藤1)、藤原1)、定月英理子3)、吉田直喜4)、鳥巣至道5)
1)王子ペットクリニック 東京どうぶつ低侵襲内視鏡センター 2) 岡山理科大学 医獣医連携獣医学分野
3)あさか台動物病院 4) ノヤ動物病院 5) 宮崎大学 農学部 附属動物病院研究室

<はじめに>

犬の先天性肝外門脈体循環シャント(EH-cPSS:extra hepatic congenital portosystemic shunt)は外科的にシャント血管を閉鎖することで完治が見込める疾患であるが、開腹手術ではシャント血管の流入部位を確認するために剣状突起から恥骨付近まで大きく切開することが必要となる。
しかし腹腔鏡を用いれば、小切開と体位変換でシャント血管の結紮が可能であり、手術侵襲を大きく減らすことができる。
我々は以前より、犬のEH-cPSSに対し腹腔鏡下でのシャント結紮術のアプローチ方法を開発および実施している(第90回および第92回日本獣医麻酔外科学会)。
今回一定の症例数を蓄積し、腹腔鏡手術の症例と開腹手術の症例の成績を比較検討したのでここに報告する。

<症例と方法>

2014年6月から2018年10月に王子ペットクリニックに来院し外科手術が実施された34例のEH-cPSS の犬を回顧的に検討した。
すべての症例は術前に造影CT検査が実施され、腹腔鏡手術で実施するかどうかを同一の術者によって事前に判断された。
手術はシャント血管を確認した後、結紮糸をかけ、一時的にシャント血流を遮断した時の門脈圧を測定し、完全結紮または部分結紮のいずれかが選択された。
切皮してからシャント血管を結紮するまでの時間(結紮時間)、術創の大きさ、そして術後のブプレノルフィンの使用量を腹腔鏡手術および開腹手術で比較した。

<成績>

腹腔鏡下で行われた症例は25例および開腹下で行われた症例は9例だった。
完全結紮が行えた症例は、腹腔鏡手術で96%(24例)、開腹手術で33%(3例)だった。
結紮時間の平均(±標準偏差)は、腹腔鏡手術および開腹手術で、それぞれ62±16分および40±19分となり、腹腔鏡手術で有意に長かった(p <0.05)。
術創の大きさの中央値(範囲)は、腹腔鏡手術および開腹手術で、それぞれ5.8 (3.1-8.5)cmおよび14.0 (8.5-15.0)cmとなり、腹腔鏡手術で有意に小さかった(p <0.05)。
周術期に同様の鎮痛管理を行った症例で、術後のブプレノルフィンの総使用量および投与回数を比較すると、その中央値は腹腔鏡手術(n=18)で20 (0-40) μg/kgおよび1 (0-4)回、開腹手術(n=5)で 40 (0-60) μg/kgおよび3 (0-5)回となり、有意ではなかったが腹腔鏡手術で少ない傾向があった(p=0.286および0.271)。

<考察>

開腹手術で行った症例に比べ腹腔鏡手術を行った症例の方が術創が有意に小さく、鎮痛剤の使用量が抑えられる傾向があり、術後の疼痛管理が容易であった。
また、正確に時間を比較したわけではないが、腹腔鏡手術のほうが自発的な食欲回復が早いと感じられた。このことは、術後低血糖を起こしやすいEH-cPSS の犬には利点であった。
以上のことからも腹腔鏡手術は手術侵襲が少なく、患者への負担が少ないと考えられた。
一方、腹腔鏡手術のデメリットは手技が煩雑で、手術時間が延長してしまう点である。本研究でも結紮時間は、開腹手術と比較すると有意に延長している。
しかし以前我々が報告した際は79±17分(n=9)であり、この症例を除くと54±12分(n=16)と有意に短縮しており(p <0.05)、技術が洗練されることで手術時間の短縮は可能である。
今回、我々が開腹手術を選択した症例には、腹腔鏡手術での操作が困難なシャント血管が短い症例も含まれる。
シャント血管が短いと、結紮時に門脈圧が上がることが多く、完全結紮が困難である場合が多い。本研究における開腹手術での完全結紮率が低いことも、これに起因すると考えられる。

<結論>

腹腔鏡手術は煩雑だが術後疼痛管理に優れており、術後低血糖を起こしやすいEH-cPSS の犬には有益な選択肢となりうる。
しかし、EH-cPSSのタイプは多岐にわたり、すべての症例で腹腔鏡が選択できるとは限らない。今後さらに比較検討を重ね、EH-cPSS の腹腔鏡手術手技を確立していく。

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