ペットの
門脈体循環シャント

犬の門脈体循環シャント(PSS)
とは?

A. 血管奇形の病気です。

門脈体循環シャント(PSS:Portosystemic Shunt)とは、門脈シャントやPSSとも呼ばれ、本来肝臓に流入するはずの門脈血流が肝臓を迂回して全身循環に流れ込む血管奇形の病気です。 門脈は、消化管から吸収した栄養分や腸で発生した有害物質を肝臓に運ぶための血管です(図A)。
門脈血中には肝臓や全身に必要な栄養分や全身に悪影響を及ぼす有害物質が非常に多く含まれています。
PSSではこの門脈血が肝臓をバイパスして全身に流れることによって、肝臓が成長せず、また有害物質を無毒化することが出来ないため、有毒物質が全身に流れてしまいます(図B)。

門脈シャント

PSSの症状が重篤な場合には、肝性脳症という神経症状を示し死に至ることもあります。

門脈体循環シャントの正常な犬との比較写真

門脈体循環シャントの多くは先天性

PSSの多くは先天性であり、遺伝が関与していると考えられています。PSSは以前、非常に珍しい疾患として考えられていましたが、日本獣医生命科学大学でのPSSの割合は全診療頭数の2.3%であり、手術件数に至っては全手術件数の7.5%となり年々増加する傾向にあります。

門脈シャント(PSS)になると…

PSSの一般的臨床症状は、食欲不振、嘔吐、活動性の低下、多飲多尿そしてけいれん発作などがあります。
先天性PSSの症例の多くは、兄弟犬と比較して体格が小さい、虚弱体質であることが多いですが、多くの症例で生後3ヶ月頃を過ぎてから、臨床症状が発現するため、ペットショップやブリーダーの時点で症状に気がつくのは困難な場合があります。

早期に診断するためには、特殊な検査を行う必要があります。

診断について

血液検査で血中の胆汁酸やアンモニアの濃度を測定することによって出来ます。
*確定診断は全身麻酔下による門脈造影が必要となります。

異常の発見には胆汁酸の検査が有用

胆汁酸とは、肝臓でコレステロールから生成され胆嚢から消化管に排泄され脂肪の消化吸収を助ける胆汁の主成分で、消化管から門脈を経て再吸収され、肝臓で再利用される腸肝循環を行っている物質です。
健常な動物では、血液中の胆汁酸の濃度は25μmol/L以下と非常に微量ですが、重度な肝障害や門脈血流が大静脈に短絡すると血中の胆汁酸の濃度が異常に高値になります。
胆汁酸は肝臓に極めて特異性の高い物質です。肝臓の逸脱酵素や胆管酵素に異常が認められない場合でも、肝機能や門脈循環に異常がある時には必ず上昇するので、これらの疾患が示唆される症例においては非常に有用な検査となります。

門脈体循環シャントの
治療方法と治療例

外科的治療と内科的治療がありますが、内科的治療で症状は改善しますが完治することはありません。
手術でシャント血管を結紮することにより完治が望めるため、診断がつき次第できるだけ早期に手術を実施することをお薦めいたします。

<症例:犬>MIX 9ヶ月 去勢 雄

血液検査にて、肝酵素の軽度上昇、BUNの低値、アンモニアおよび総胆汁酸の高値にて門脈シャントを疑った症例です。

門脈シャント結紮術

エコーおよびCT撮影にて門脈-後大静脈シャント血管を確認し、腹腔鏡下にてシャント血管結紮術を行いました。

門脈シャント結紮術 門脈シャント結紮術

腹腔内にカメラ、鉗子をいれシャント血管を見つけます。その後シャント血管を傷つけないように結紮糸を通し、特別な方法を使ってシャント血管を結紮します。

結紮後造影

しっかりと結紮し、もちろん結紮後造影を行い、結紮がしっかりなされているか確認。手術の傷口も開腹と比べると歴然の差です。術後の回復も圧倒的に早かったです。

<症例:犬>ヨークシャテリア 2歳 雌

血液検査にて肝酵素の高値、BUNの低値、アンモニアおよび総胆汁酸の高値にて門脈シャントを疑い来院されました。

レントゲンにて肝臓が小さく見えます(小肝症)。

CT検査にて門脈シャントの確定診断を実施しました。

肝臓の色調は悪く、サイズも小さかったです。

肝臓の生検を実施し、病理組織学的な肝臓の病変の有無を調べます。

門脈圧を測定するために門脈留置を設置している様子。シャント血管を縛る時に、門脈圧をモニターしていきます。

シャント血管を縛っているところ。肉眼的に即座にシャント血管を見つけるのは専門医の技です。

【門脈造影:結紮前】 シャント血管が造影剤で描出されています。

【門脈造影:結紮後】 シャント血管はなくなり、肝臓内に血液が流入しています。

膀胱結石を併発していました。結石を摘出している様子。

尿酸アンモニウム結石でした。

<症例:犬>ウェルシュ・コーギー 8歳 女の子

血液検査にて肝酵素の高値、BUNの低値、アンモニアおよび総胆汁酸の高値にて門脈シャントを疑った症例です。

膀胱結石を併発していました。結石を摘出している様子。

尿酸アンモニウム結石でした。

シャント血管を示しています。シャント血管を見つけるのは匠の技です。腹腔内の血管をすべて把握していないと、シャント血管を見つけることはできません。

<症例:犬> MIX 2歳 女の子

門脈シャントの手術を一度しているが、シャントが再疎通してしまったとのことで来院しました。

一度手術を実施しているため、レントゲンにて小肝症は認められませんでした。

CT検査にてシャント血管が確認され、再疎通していました。

術野が狭く困難な手術でした。

シャント血管結紮後の門脈造影。肝臓内に血液が流入しているのがわかります。

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