王子ペットクリニック:学会発表19

黄疸を伴う肝疾患にADSC(自家脂肪由来間葉系幹細胞)投与を実施した犬の1例

小林 巧、重本 仁

王子ペットクリニック

連絡先:e-mail:animal.clinic@oji-pet.jp

TEL:03-3913-2500

【はじめに】

犬の肝疾患は、薬物、中毒、ウィルスや細菌などの感染症から腫瘍にいたる様々な原因により 発症する。肝障害や炎症が持続すると肝細胞の破壊と線維化が進行し肝硬変に至ることもある。 今回、黄疸を伴う肝疾患の犬に自家脂肪由来間葉系幹細胞(以下ADSC)を門脈内投与し、良 好な結果が得られたため報告する。

【症例・経過】

症例はジャックラッセル、6歳、体重 5.4 kg の去勢オスで、過去に胆嚢粘液嚢腫のため紹介 元の病院で胆嚢摘出をされており、術後3か月で肝酵素が上昇し、黄疸や腹水貯留が認められた ため当院を紹介受診した。 血液検査で肝酵素は高値を示し黄疸が認められた。超音波検査では胆管閉塞の所見はなく、肝 実質は瀰漫性に高エコーを呈していた。肝実質の炎症や変性を疑い、まずは抗生剤の試験的投与 を行った。その後はステロイドや食事管理を含めた支持療法を継続し、一般状態は比較的良好で あったが、肝酵素が安定しない状態と間欠的に黄疸を呈する状態が続き、ADSC投与を実施した。 ADSCは鎮静下で症例の臀部の脂肪を採取して培養し、投与日まで凍結保存した。ADSC投与 は全身麻酔下で開腹手術による肝生検と同時に門脈内に直接投与した。肝臓の表面は肉眼的に不 整および瀰漫性に乳白色を呈しており、多発性の門脈体循環シャントも確認された。肝臓の病理 検査では肝細胞が消失と再生性結節と思われる結節性過形成が認めらた。門脈域では小葉間胆管 が顕著に増生し、残存する肝細胞にも重度の空胞変性が認められた。 ADSC投与後、肝酵素は徐々に改善し、2回目のADSC投与(静脈内投与)を経てステロイド の休薬が可能であった。初回のADSC投与から5ヶ月後には肝酵素は正常値を示し、症例の一般 状態も良好であった。

【まとめ】

慢性肝疾患に対する治療は食事による栄養管理や抗線維化を目的としたステロイドや免疫抑 制剤などの投与が一般的である。近年、医学ではラットモデルにおいて、慢性肝疾患や肝硬変の 患者に間葉系幹細胞を投与することにより、肝酵素の改善や肝臓の線維化を抑制することが報告 されている。本症例でもADSC投与後に肝酵素の改善やステロイドの休薬が可能だったことから、 犬おいても持続的な炎症や進行性の肝疾患に対して、ADSC投与がQOLの維持に有効であると 示唆された。

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