王子ペットクリニック:学会発表18

犬の腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術のタイプ別アプローチ法の検討

○小林巧1)重本仁1)2)吉田直喜3)蘆立太弘4)定月英理子5)鳥巣至道2)

1)王子ペットクリニック2)宮崎大学農学部附属動物病院3)ノヤ動物病院4)あしだて動物病院5)あさか台動物病院

【はじめに】

犬の先天性肝外門脈体循環シャント(EH-cPSS:extra hepatic congenital portosystemic shunt)は結紮 糸やセロファンバンドを用いてシャント血管を閉鎖することで症状の軽減や完治が見込める疾患である。これらの手術 は開腹手術が一般的であるが、我々は第90回日本獣医麻酔外科学会において腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術を行っ た脾静脈-奇静脈シャント、右胃静脈-後大静脈シャントの症例報告を行った。その後、脾静脈-横隔静脈シャント、脾静 脈‐後大静脈シャントに関しても腹腔鏡下での手術を実施し、タイプ別アプローチ法と腹腔鏡下手術の適応に関しての 検討を行ったのでここに報告する。

【材料と方法】症

症例は2014年5月から2016年2月に当院に来院し、外科手術が適応となった犬のEH-cPSS の13例のうち 腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術を行った9例とした。全ての症例において術前にCT検査を実施し、血管走行を三次 元化することで手術計画を立てた。開腹手術を選択した症例は、他院にてシャントの手術の既往歴があり癒着の可能性 があること、術前のCT検査にて完全結紮が困難であると予想されること、体格が小さいことなどを理由に選別した。腹 腔鏡下手術を選択した症例では、動物の体位やトロッカーの位置、門脈造影の方法、結紮法などを術前に検討した。 症例は雄が4例(2例は去勢雄)、雌が5例(1例は避妊雌)、年齢は中央値 1歳4ヶ月:6ヶ月~8歳2ヶ月、体重は中央 値 3.3 kg :2.0 ~ 7.92 kg、犬種はミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリア、トイ・プードルが各2例、ウェル シュ・コーギー・ペンブローク、ビション・フリーゼ、MIXが各1例であった。シャントタイプは脾静脈‐横隔静脈シャ ントが4例、脾静脈‐奇静脈シャント、右胃静脈‐後大静脈シャントが各2例、脾静脈‐後大静脈シャントが1例であっ た。9例中の8例ではシャント結紮術の他に不妊手術、膀胱結石摘出術なども実施した。

【結果】脾

脾静脈‐横隔静脈シャントと脾静脈‐奇静脈シャントは右横臥位で保定し、横隔静脈シャントでは横隔静脈に シャント血管が流入した部位、奇静脈シャントではシャント血管が横隔膜の腰椎部に流入する位置で結紮を行った。右 胃静脈‐後大静脈、脾静脈‐後大静脈シャントは左横臥位で保定し、気腹後に十二指腸を左側に展開し後大静脈に流入 する直前のシャント血管を結紮した。門脈圧の測定と門脈造影は、脾静脈‐奇静脈シャントの1例では脾臓に留置針を 設置し行った。それ以外の症例では、膀胱のやや頭側に 2-3cm の小切開を加えてラッププロテクターを装着し、空腸を 体腔外に出して腸間膜静脈から門脈圧の測定と門脈造影を行った。シャント血管の結紮までの時間は平均 79±17 分、 閉腹までの時間は平均 125±11 分であった。全ての症例で入院期間中に術後発作はなく、3-4 日で退院が可能であった。

【考察】

Fukushima らの報告によると国内における EH-cPSS の各シャントタイプの約 9 割の症例がこの 4 タイプに分 類される。手術時の体位やトロッカーの挿入位置、門脈造影の方法も若干異なるが、この 4 タイプの EH-cPSS におい て腹腔鏡下での手術が可能であった。腹腔鏡下の手術は手順が複雑である為に手術時間が延長してしまうことがあるが、 術後の回復は開腹手術と比較して早いと感じられ、術中の視野も鮮明でモニタ上で情報を共有できることなど大きなメ リットがある。今回我々は術前検査にて完全結紮が可能であると判断した症例のみ腹腔鏡下手術を実施したが、今後は 部分結紮が必要となる症例においても適応を広げていく予定である。

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