王子ペットクリニック:学会発表16

腹腔鏡下にて副腎摘出術を実施した犬の 2 例

○長尾麻矢1)重本仁1)2)吉田直喜3)大塚茂樹3)河津充伸1)草場翔央1)沓内 統1)小林 巧1)鳥巣至道2)

1)王子ペットクリニック2)宮崎大学附属動物病院 3)ノヤ動物病院

【はじめに】

副腎摘出術は原発性の良性副腎腫瘍や内科管理に反応しない副腎過形成において適応となる。人 医学領域においては昨年、副腎腫瘍に対する腹腔鏡下副腎摘除術のガイドラインが作成されている。出血量や 術後鎮痛薬の使用量、術後回復までの期間に関しては開腹手術よりも短縮できるとの報告があり、腹腔鏡下の 方が低侵襲であると判断されている。しかし獣医領域においては副腎腫瘍に遭遇する機会も少なく、ガイドラ イン等が無いため十分な検討が必要である。 今回、腹腔鏡下副腎摘出術を実施し、術後の経過が良好である犬 2 例を経験したため報告する。

【症例】

①マルチーズ(9 歳 4 ヵ月齢 5.3 kg 避妊雌)

既往歴として腎臓・膀胱結石と慢性胆管周囲炎があり、食事療法を中心に経過観察としていた。その後、健康 診断にて右副腎の腫大を認め精査を実施した。(副腎幅 右 17mm 左 7mm)ACTH 刺激試験でコルチゾール は pre10.1μg/dl post24.7μg/dl であり、後日実施した低用量デキサメサゾン抑制試験において 4 時間後・8 時間後ともに十分な抑制が認められた。高血圧症も認められた。MRI 検査において下垂体微小腺腫の可能性 も示唆され経過観察としていたが、右副腎サイズの軽度な増大を認め手術となった。

②雑種犬(6 歳 5 ヶ月齢 8.6 kg 去勢雄)

近医の健康診断において偶発的に左副腎の腫大を認めたとのことで来院。(副腎幅 右 6mm 左 21mm)臨床 症状はなく、血液検査や画像診断において異常は認められなかった。ACTH 刺激試験でコルチゾールは pre1.5 μg/dl post10.4μg/dl であった。飼い主の希望により腹腔鏡下での副腎摘出術を希望されたため、当院にて手 術となった。 どちらの症例も、ポジショニングは摘出側副腎が上になるような側臥位に固定し、4 本のトロッカーを使用し た。血管の剥離はソノサージと鉗子にて行い、大血管(横隔腹静脈)に関してはクリップにて遮断し、切断し た。摘出した副腎は腹腔内においてパースに収め、腹腔外に取り出した。 また、症例②においては術中に血圧変動が著しく、フェントラミンにて対処した。 手術時間は症例①で 210 分、症例②で 125 分であった。

【成績】

どちらの症例においても術後 4 時間で自力での採食が可能であった。病理組織学検査の結果、症例① は皮質腺腫、症例②は褐色細胞腫であった。術後は、転移所見やホルモン異常などは認められておらず、現在 も良好に経過している。

【考察】

腹腔鏡下副腎摘出術は左右どちらの副腎においても適応が可能であると考えられた。術後回復までに 要する時間は大変短いと実感した。また、傷口が小さいこと、拡大視野の確保と視野の展開が容易であること および術中の様子や情報を共有できる事も安全な手術を実施する上で十分な利点である。特に、症例 2 では副 腎を触ると血圧が急上昇する場面が多く認められた。腹腔鏡手術では術者が副腎を触っているところがモニタ ーを通じて麻酔師とも共有できたため、副腎を触る直前から降圧剤のフェントラミンの投与準備が行え、麻酔 管理が非常に良好に行えたと考えられた。手術時間と腹腔鏡下副腎摘出術が適応な症例かどうかを判断するこ とが課題であると考えられた。そのためには、術前の臨床症状や全身状態からのリスク評価、画像診断による 血管や周囲組織への浸潤程度の評価、トロッカー刺入部位やアプローチ法の検討などの術前計画および飼い主 へのインフォームをきちんと行う必要がある。副腎摘出術を実施する際にその症例毎の最善の選択ができるよ う、今後も検討を重ねていきたい。

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