王子ペットクリニック:学会発表15

犬の先天性肝外門脈体循環シャントにおける腹腔鏡手術の適応

○小林 巧1)重本 仁1)吉田 直喜2)金子 泰之3)水谷 真也3)鳥巣 至道3)

1)王子ペットクリニック 2)ノヤ動物病院3)宮崎大学農学部附属動物病院研究室

【はじめに】

門脈体循環シャント(Portosystemic shunt:PSS)は肝臓の栄養血管である門脈から後大静脈や奇静脈などの全身循環にシャント血管が形成され、肝臓の発育不全を引き起こす疾患である。NH3などの本来肝臓で代謝されるはずの物質が直接全身循環に流入するため、高NH3血症や肝性脳症を引き起こし、重度な場合はQOLを著しく低下させる。PSSは先天性のものと後天性のものに分けられるが、先天性のPSSはシャント血管の閉鎖により症状の軽減や完治が望める。シャント血管の閉鎖法には糸で結紮する他にセロファンバンドを用いる方法やアメロイドリングを用いた方法がある。これらの手術は開腹下での手術が一般的で腹腔鏡下でシャント血管を閉鎖したという報告は少ない。今回、先天性のPSSの4症例において腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術を実施したので報告する。

【症例】

①ウェルシュ・コーギー・ペンブローク(未避妊メス、6ヶ月齢、6.75 kg、右胃静脈-後大静脈シャント)
手術:腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術、膀胱結石摘出術、避妊手術。手術時間:150分。
②MIX(未去勢オス、6ヶ月齢、2.05 kg、右胃静脈-後大静脈シャント)
手術:腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術、去勢手術。手術時間:110分。
③トイ・プードル(未去勢オス、4歳1ヶ月齢、3.0 kg、左胃静脈-奇静脈シャント)
手術:腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術、潜在精巣摘出術。手術時間:95分。
④トイ・プードル(未避妊メス、9ヶ月齢、5.82 kg、左胃静脈-奇静脈シャント)
手術:腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術、卵巣摘出術。手術時間:100分。

【術式】

右胃静脈-後大静脈シャントの症例(①②)では左半仰臥位に固定し、それぞれ3本のトロッカーを挿入した。また門脈圧の測定ならびに門脈造影のためラッププロテクターを挿入し、そこから腸管を腹腔外に牽引して腸間膜静脈に留置針を設置した。左胃静脈-奇静脈シャントの症例(③④)では右半仰臥位に固定し、3本のトロッカーを挿入した。また症例③では症例①②と同様にラッププロテクターを用いて門脈圧の測定、門脈造影を実施したが、症例④では腹腔外から経皮的に脾臓に留置針を挿入し、経脾的門脈造影を実施した。仮結紮後の平均門脈圧、肝内門脈枝の発達から4症例とも完全結紮が可能であり、シャント血管を確保した糸を用いて腹腔外でノットを作成し、ノットプッシャーを用いてノットを腹腔内に進めていき血管を結紮した。

【考察】

今回、右胃静脈-後大静脈シャントの2例、左胃静脈-奇静脈シャントの2例において腹腔鏡下門脈体循環シャント結紮術を実施した。腹腔鏡下での手術のメリットは手術侵襲が小さいこと、視野が確保できること、術野をモニターに映し出すことで情報の共有ができることなどが挙げられる。今回手術を行った全症例において術後経過は良好でPSSは完治している。過去の報告では犬の先天性肝外門脈体循環シャントの21%が左胃静脈-奇静脈シャント、13%が右胃静脈-後大静脈シャントであるとされている。腹腔鏡下での手術には技術を要し、開腹手術と比較して手術時間が延長する可能性もあるが、シャントタイプによっては腹腔鏡手術が適応となる可能性があると考えられた。しかし、結紮後の門脈圧が高く部分結紮が必要な症例への対処法やより侵襲の小さい門脈圧の測定方法など多くの課題が挙げられる。今後はそれらの課題を解決すると共に他のシャントタイプに対する術式も確立し、犬の先天性門脈体循環シャントに対する腹腔鏡手術の適応を検討していく予定である。

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