王子ペットクリニック:学会発表10

犬の先天性門脈体循環シャントにおける結紮後発作症候群に対するレベチラセタム の有用性の検討:51 例

○村岡 幸憲 1), 重本 仁 1) 3), 弥吉 直子 2), 水谷 真也 3), 金子 泰之 3), 鳥巣 至道 3)

1) 王子ペットクリニック, 2) 日本獣医生命科学大学 動物医療センター 3) 宮崎大学農学部附属動物病院

<背景>

犬における先天性門脈体循環シャント(CPSS)の結紮後発作症候群(PLS)の発生率は 5-18%と報告されており、運動失調から全般発作まで重症度は様々である。PLS のほとんどが術後 72 時間以内に認められ、通常発作は難治性であり死亡率が高いとされている。我々が知る限り、 これまでに PLS 自体の発生率を低下させる有効な手段はなかった。しかしながら、2011 年 Fryer らが、人において部分発作の治療に使用されているレベチラセタム(LEV)が、犬の CPSS におけ る PLS の発生率を有意に減少させたと報告した。そこで今回我々は、レベチラセタムの PLS に対 する有用性をさらに検討すべく、一般的に発作発生率が高いとされる高齢犬(7 歳以上)の症例 を含めて調査を実施した。

<材料と方法>

2009 年 4 月から 2013 年 11 月までの間に王子ペットクリニックおよび宮崎大学 農学部附属動物病院に来院した犬において、CPSS が認められシャント血管結紮術を実施した症例 (n=51)を調査した。全症例で術中および CT 検査における門脈造影によって CPSS を確定診断し た。シャント血管は 1 本の肝内、肝外シャントであり、シャント血管結紮術を実施した。症例は、 手術前に LEV を投与した群(LEV 群:n=18)、また、抗てんかん薬の投与がない群(No LEV 群:n=33) の 2 群に分けた。7 歳以上の症例は LEV 群、No LEV 群に 3 例ずつ含まれる。LEV(60mg/kg/day/PO) は手術前から投与し、手術後は少なくとも 3 日間は投与した。手術後 7 日以内に発生した発作を PLS とした。Fisher’s exact test を用いて、LVE 群と No LEV 群を比較した時、LVE 群における PLS の発生率を検討した。

<結果>

LEV 群は 11%(2/18)、No LEV 群は 12%(4/33)で PLS が認められた。LEV 群と No LEV 群を比較し、PLS の発生率における有意差は認められなかった(p=0.35)。PLS が発生した症例の 年齢は LEV 群で 0.8 および 5.9 歳、No LEV 群で 1.3、1.7、2.9 および 11 歳であった。LEV 群の死 亡率は 0%(0/18)であり、一方、No LEV 群は 3%(1/33)であった。No LEV 群の PLS が認められ た 1 例のみで死亡が確認された。PLS が発生した他の 5 例は、重積発作に移行する前に治療でき たこともあり、神経症状の後遺症が認められた症例もあったが順調に回復した。 <考察とまとめ> 今回我々が実施した調査では、LEV の投与によって犬の CPSS における PLS 発 生率を有意に低下させることはできなかった。しかしながら、LEV 群において発作発生率が高い 7 歳以上の症例で PLS が認められず、また、7 歳未満では PLS は発生したが死亡した症例は認めら れなかった。以上のことから、術前から LEV を投与することによって PLS の発生率は低下しない が、PLS 発生症例の死亡率は低下することが考えられた。今後も更に症例数を重ね検討が必要で あることが考えられた。

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