王子ペットクリニック:学会発表05

経腸間膜静脈門脈造影ではシャント血管を描出できず CT 門脈造影により単一 PSS と診断された 2 例

○村岡 幸憲 1), 重本 仁 1)4), 宗像 俊太郎 2), 岡村 優 3), 鳥巣 至道 4)

1) 王子ペットクリニック, 2) あさか台動物病院 3) AC プラザ 苅谷動物病院, 4) 宮崎大学農学部附属動物病院

近年、CT 検査によって門脈造影を実施することで先天性門脈体循環シャント(CPSS)を 3D-CT 画像にて診断できるようになってきた。画像診断の普及と供に、様々なシャントタイプが明らか になってきている。手術方法を事前に検討でき、手術時間の短縮やオーナーへの十分なインフォ ームドが可能となった。今回、経腸間膜静脈門脈造影ではシャント血管を描出できず、CT 検査の 門脈造影でのみ CPSS を診断できた 2 症例に遭遇した。これらの症例での術中のシャント血管閉塞 の確認作業は、手術 1 ヶ月後の CT 検査でのみ可能であり、非常に稀な症例であったためその概要 を報告する。

症例 1:イタリアングレーハウンド、10 ヶ月齢、未去勢雄、3.6kg。

健康診断の血液検査にて Alb(2.3 g/dl:参考範囲 2.6-4.0 g/dl)および TP(4.6 g/dl:参考範囲 6.0-8.0 g/dl)の低下 が認められた。追加検査にて、NH3(83μg/dl:参考範囲 16-75μg/dl)および TBA(53.0μmol/l: 参考範囲<25μmol/l)の高値、BCAA(329μmol/l:参考範囲 400-600μmol/l)の低下が認めら れた。TYR は参考範囲内であった。レントゲンでは小肝症が認められた。CPSS を疑い CT 検査にて 門脈造影を実施したところ単一肝外シャント(右胃静脈-後大静脈シャント)と診断された。

症例 2:MIX の猫、2 ヶ月齢、未避妊雌、2.1kg。

流涎および旋回運動などの神経症状が認めら れホームドクターを受診。血液検査にて NH3(431μg/dl:参考範囲 0-95μg/dl)および TBA(39.0 μmol/l:参考範囲<20μmol/l)の高値、BCAA(345μmol/l:参考範囲 400-600μmol/l)の低下、 TYR(67μmol/l:参考範囲 20-50μmol/l)の高値が認められた。CPSS を疑い CT 検査にて門脈造 影を実施したところ、単一肝内シャント(門脈-肝静脈シャント)と診断された。

両症例とも当院にて開腹手術を実施し、経腸間膜静脈門脈造影を実施したところシャント血管 は描出されなかった。3D-CT 画像を基にシャント血管を閉塞したが、結紮前後で門脈圧は変化し なかったため、閉塞した血管がシャント血管であるか否かを術中に評価することが出来なかった。 手術 1 ヶ月後に血液検査を実施したところ、両症例とも NH3、TBA および BCAA 等の異常は完全に 改善していた。再び CT 検査にて門脈造影を実施したところ、シャント血管は完全に閉塞しており 手術の成功が確認できた。 症例 1 では門脈に流入する胃・十二指腸静脈が非常に細かったため経腸間膜静脈門脈造影にて、 門脈 → 胃・十二指腸静脈 → シャント血管 → 後大静脈へと造影剤が流れなかったこと が示唆された。また症例 2 では門脈と肝静脈のシャント血管が非常に細かったため、経腸間膜静 脈門脈造影にて造影剤がシャント血管に十分に流れ込まず確認が不可能であったと考えられた。 通常、術中においてシャント血管結紮前後の門脈造影を比較検討して、シャントの閉塞を確認し ている。しかし今回の 2 症例は、シャントの閉塞が術後の CT 検査による門脈造影でしか確認でき なかった。今回のようなシャントタイプの手術を成功させるためには、術前・術後における CT 検 査での慎重な門脈造影の評価が必要不可欠であると考えられた。

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