王子ペットクリニック:学会発表03

先天性胆道拡張症および胆管の発生異常(Ductal plate malformation)が併発した猫に 胆汁外瘻を実施し良好に経過した 1 例

○村岡 幸憲 1)、重本 仁 1)、青木 祐子 2)、鳥巣 至道 3)

1) 王子ペットクリニック、2)ノースラボ、3)宮崎大学農学部附属動物病院

【緒言】

先天性胆道拡張症および Ductal plate malformation は医学領域では小児の代表的 な肝・胆道疾患である。先天性胆道拡張症は肝外胆管の発生異常によって胆道が拡張し、胆 汁の流れが悪くなることで肝障害を引き起こす。犬においては Gorlinger らおよび Last らが 報告しているが、猫における報告は我々が知る限りまだな い。また Ductal plate malformation は肝内胆管原基の発生異常で肝内胆管に炎症および線維化が生じる疾患であ る。犬の先天性肝線維症において Ductal plate malformation が認められたと Brown らが報 告しているが、猫における報告はなく非常に稀な疾患である。今回我々は、先天性胆道拡張 症および Ductal plate malformation を呈した若齢の猫に遭遇し、試験開腹において胆汁外 瘻チューブを設置し、術後外瘻胆汁を経口的に投与し内科的に維持したところ良好に改善し たのでその概要を報告する。

【症例】

シンガプーラ、1 歳 9 ヶ月、去勢雄、体重 2.4kg、BCS3/5。嘔吐、腹部膨満、肝酵 素の上昇および黄疸を主訴に来院した。血液検査所見では肝酵素の上昇および T-BIL の高値 が認められた。超音波検査にて胆泥の貯留および胆嚢・胆管の高度な拡張が認められ、胆管 閉塞が起きていることが考えられたため、緊急的に試験開腹を実施した。胆嚢、総胆管およ び肝管が異常拡張しており、肉眼的にそれらの区別が困難であり嚢胞状を呈していた。嚢胞 壁は重度に肥厚していた。術中所見から先天性胆道拡張症と診断した。胆嚢摘出術は困難と 判断し、外瘻チューブを嚢胞に装着して、胆汁を抜去したところ腸液の逆流が認められたた め、その時点で胆汁抜去を中断し手術を終了した。肝臓病理検査では慢性化膿性胆管肝炎お よび Ductal plate malformation と診断された。術後、数時間以内に嚢胞内に胆汁が急激に 再貯留し腹囲膨満が認められたため、外瘻チューブから再度胆汁を抜去したところ、循環血 液量減少性のショックと考えられる虚脱症状が認められ、緊急処置を施した。このことから、 抜去した胆汁を廃棄することは危険だと考えられたため、抜去した胆汁を経口的に投与した ところ、一般状態は徐々に改善していった。また胆汁の細菌培養検査を行ったところ、多剤耐 性菌が認められたため、薬剤感受性試験の結果に従い適切な抗生剤を使用した。術後は継続 的に抜去した外瘻胆汁を経口的に投与していたが、外瘻胆汁の抜去量は漸減する事ができ、術 後 184 日目で外瘻チューブを抜去した。T-Bill、ALP そして GGT は術後すぐに正常化し参 考範囲内を維持している。現在は内服の投与のみで良好に経過観察中である。

【考察とまとめ】

獣医学領域において、今回のように外瘻胆汁の経口的な返還を行った報告 はほとんど認められないが、医学領域では、減黄処置における外瘻胆汁は腸管免疫や栄養学的 な観点から腸管内に返還すべきであるとされている。今回の症例においても外瘻胆汁の経口 的な返還は、術後の状態を良好に維持できたため、非常に有用な治療法であると考えられた。

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