王子ペットクリニック:学会発表01

門脈体循環シャント犬の手術後における血液凝固系の検討

○村岡 幸憲 1),添田 亜彩美 1),重本 仁 1),鳥巣 至道 2)

1) 王子ペットクリニック、2) 宮崎大学 農学部付属動物病院

先天性門脈体循環シャント(以下 PSS)は、肝臓に流入するはずの門脈血流が肝臓を迂回して 全身循環に流れ込む血管奇形の病気である。PSS の外科的治療法はシャント血管を結紮すること であるが、近年様々な術後合併症が報告されている。重要な術後合併症の中に凝固異常があり、 適切な治療を実施しない場合死に至ることがある。PSS 犬の手術直後に凝固異常が引き起こされ ることは報告されているが、術後 3 日目までの短期間における凝固系の変化については我々が知 る限りまだ報告はない。そこで今回我々は術前、術後 1 日目、2 日目、3 日目および 1 あるいは 2 ヶ月目の 5 ポイントで血小板(PLT)、プロトンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時 間(APTT)およびフィブリノーゲン(Fib)を測定して、PSS の術後における凝固系の変化を検討 した。

症例は 2009 年の 7 月から 10 月までに王子ペットクリニックにて手術を実施した PSS 犬の 4 症例を用いて検討した。4 症例ともホームドクターにて血中アンモニア(NH3)および総胆汁酸(TBA) の高値が認められており、CT 検査にて門脈造影を実施し PSS と診断した。PLT は Celltac α(日 本光電)、PT、APTT および Fib の測定は COAG2V(Wako)を用いて測定した。 術前における血液凝固検査では、PLT は 3 例で低値、PT は 3 例で延長、APTT は 1 例で延長が認 められた。Fib は 4 例とも参考値範囲内であった。シャント血管の閉塞は門脈圧をモニターし、2 例においてセロファンバンドを用いて結紮、その他の 2 例においては完全結紮を実施した。セロ ファンバンドを用いた 2 例は術中に全血輸血を実施した。全症例において術後 3 日目まで PLT の 減少(平均 47%減)が認められた。減少した PLT は、術後 1 あるいは 2 ヶ月目において 2 例で参 考値範囲まで改善した。術前と比較し術後 1 日目において、輸血を実施した 1 例以外、PT は平均 107%および APTT は平均 189%延長した。術後 3 日目においては、PT は 3 例で延長、APTT は 1 例で 延長が認められた。しかし、術後 1 あるいは 2 ヶ月目の PT および APTT は全症例において参考値 範囲内まで改善した。Fib は全症例において術後 2 日目に高値が認められ、術後 1 から 2 ヶ月目 には参考値範囲内まで低下した。

PSS の術後、PLT の減少、PT および APTT が延長していることから術中から術後において PLT お よび凝固因子が多量に消費されている事が考えられた。Fib は術後 2 日目において高値を示した 事から、手術侵襲によって急性炎症が引き起こされ肝臓での Fib の合成が活性化していると考え られた。術後 3 日間においては持続的に凝固系に異常が生じる傾向が認められたが、臨床的な出 血傾向は認められなく今回は術後輸血を実施しなかった。しかし、凝固異常以外の術後合併症が 引き起こされた場合、DIC に進行してしまう危険性があることが考えられ、術後管理には十分な 注意が必要であることが示唆された。今回症例数が 4 例と少ないため、今後も症例数を重ね更な る検討が必要であることが考えられた。

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