ペットの
門脈体循環シャント

犬の門脈体循環シャント(PSS)
とは?

当院での取り組みと新しい治療法

犬と猫の門脈体循環シャント(PSS:Portosystemic Shunt)とは、略されて門脈シャントやPSSとも呼ばています。原因としては遺伝的素因が強いといわれています。
本来、腸(消化管)から吸収された栄養や毒素(アンモニア)は門脈という静脈血管から肝臓に運ばれ処理されます。しかし、門脈シャントの犬や猫は、門脈血管の途中に枝分わかれしたシャント血管(図B:赤い血管がシャント血管)ができてしまっているので、そちらに栄養や毒素が流れ込んでしまうのです。
肝臓の血管はフィルターのように細くなっているので流れやすいシャント血管の方にどうしても流れ込んでしまいます。

先天性と後天性

先天性は生まれた時からシャント血管が存在する症例のことをいいます。一般的には先天性が外科治療の対象です。
後天性は何かしらの原因(肝臓の繊維化、炎症など)によって門脈圧が亢進し、シャント血管(一本ではない)が同じようにできてしまいます。
後天性は多発性(マルチプル)といわれ大小さまざまな血管が後大静脈に流れ込みます。このようなタイプは従来手術が適応ではありませんでした。
※当院では後天性も外科や再生医療との組み合わせて治療可能となることがあり,症状が緩和することがあります。ぜひ相談してください。

多い犬種

ヨークシャ・テリア、マルチーズ、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、チワワ、ポメラニアン、ミニチュア・ダックス、シーズー、ビション・フリーゼ、小型のテリア、コーギーなど日本で人気のある犬種に多い。
大型犬でも時折発生するが肝臓内のことが多い。
*門脈とは本来、消化管から吸収した栄養分や腸で発生した有害物質(アンモニアなど)を肝臓に運ぶための静脈血管です(図A.紫の血管)。

門脈シャント 門脈シャント

主な症状

症状

門脈体循環シャントの犬や猫は栄養状態が悪いので体が小さかったり、毒素の影響で流涎や発作、壁に頭をおしつけたり旋回運動などの様々な神経症状(※肝性脳症)が引き起こされます。そして尿酸アンモニウム結石ができるので、泌尿器絡みの症状で発見されることもあります。しかし、なかには症状がほとんどなくシニアになるまで発見されない症例もたくさんいます。 猫でも同様の症状が認められます。そしてcopper eyeという目の色を呈する子もいます。しかし、copper eyeだからといって門脈シャントだとはいえません。

※肝性脳症とは肝不全や門脈シャントなど肝臓の機能障害によって起きる、流涎や沈鬱、昏迷、発作などの神経症状のことを言います。簡単言うと肝臓が原因で起こる神経症状のことを言います。
犬や猫の門脈体循環シャントの症例は特にこのような症状をもっていると肝性脳症の原因はアンモニアの増加やベンゾジアゼピンレセプター複合体の異常などが考えられています。

診断するには?

血液検査

血液検査の特徴として血液中のアンモニアや胆汁酸の高値を認めることがあります。
通常犬の血液中の胆汁酸の濃度は25μmol/L以下と非常に微量ですが、重度な肝障害や門脈血流が大静脈に流入すると血中の胆汁酸の濃度が異常に高値になります。
胆汁酸は肝臓に極めて特異性の高い物質です。肝臓の逸脱酵素や胆管酵素に異常が認められない場合でも、肝機能や門脈循環に異常がある時には必ず上昇するので、これらの疾患が示唆される症例においては非常に有用な検査となります。しかし、これだけでは確定診断とはなりません。
アンモニアの検査は採血した後すぐに検査しないと数値が高くがでるので注意が必要です。

画像診断

近年、超音波検査機器の発達によりほとんどシャント血管がエコーでもわかるようになってきました。しかし、シャント血管が2本合流することもあるので手術をするのであれば、正確な位置(手術のプランを考えるため)を特定するためにCT検査および血管造影検査は必要です。
CT検査をすることによってプランがたてられるので手術時間の短縮と正確なタイプ診断ができます。

門脈シャントの手術の注意点

結紮後発作症候群

結紮後発作症候群とは手術をした後に起こる発作のことをいいます。門脈シャントの結紮手術のあと2~3日でおこる発作のことをいいます。
犬では5%~18%、猫ではそれよりも高く8~22%の発生率との報告があります。
発生頻度は、施設によっても異なるものと考えています。
当院では犬の術後発作の発生率は、2%となっています。
結紮後発作症候群の原因はいまだに解明されていません。
門脈体循環シャントの犬や猫は体内の発作を抑制する物質(ベンゾジアゼピン受容体と結合する物質)が健常犬よりも血液中に多いことや、手術した後の低血糖などが考えられ、当院でも、術前に発作を抑える薬の投与、術後の血糖値コントロールなど色々試行錯誤していますが、やはり完全に抑えることはできないのが現状です。

門脈体循環シャントのタイプ

犬猫の門脈-体循環シャントは下のように様々なタイプがあります。そのため、治療計画をたてるためには3DCT検査が必要になります

左胃静脈-横隔静脈-後大静脈シャント

左胃静脈-後大静脈シャント

右胃静脈-後大静脈シャント

右胃‐左胃‐脾‐後大シャント

脾静脈-後大静脈シャント(短)

犬猫の門脈体循環シャントの
新しい治療方法

これまで開腹手術がメインだったのですが当院では腹腔鏡下でほとんど手術しています。メリットとしては侵襲が小さいのはもちろんのこと拡大視野で小さな血管を確認することができる、臓器が乾かないので術後の癒着がほとんどなく、傷が小さいので術後の痛みは開腹手術より少ないです。特に門脈シャントの症例は術後に低血糖を起こしやすいので、胃腸の運動低下が少ないと、食欲も比較的すぐに戻るのでとてもメリットがあります。

門脈シャント

手術はチームでおこないます!

腹腔鏡手術

開腹手術

腹腔鏡手術(左)と開腹手術(右)の切開創の違い。




*

同じ日にいずれも門脈体循環シャント結紮術を実施した症例(完全結紮を実施)

左(開腹手術)の子は起き上がれない。
右(腹腔鏡)の子は顔を上げている。

同じ日に手術を実施した左の症例は手術が終わって3時間30分経過している。
右の症例は覚醒から30分後の様子である。

まとめ

当院では門脈体循環シャントの手術はほとんど腹腔鏡で行なっています。
数年前から考え開発し、手技もしっかりとできるようになって来ました。開腹手術よりも20分ほど長くなりますが、それでも術後の回復は圧倒的に違います。
犬の門脈体循環シャントに対し、腹腔鏡手術を行った25例と開腹手術を行った9例の比較検討、王子ペットクリニック、2019年、獣医麻酔外科発表
しかし、それでもまだまだ難しく解明できていないこともある病気です。そして門脈体循環シャントは術後の結紮後発作はゼロにすることはできません。
そのため、術後72時間しっかりと監視しなければなりません。そして術後の低血糖も起こすことがあり、30分ごとに測定する必要があります。
現在は血液を抜くことなくリブレ(矢頭)という血糖値を測定する機器を皮膚に貼り付けることによってスマホのような機械にかざすだけで測定でき、動物の採血の苦痛もありません。
今後も新しい技術の開発と技術の改善は終わることはなく、数年後にはもっといいものになっているように精進していきたい。
詳しくはメールや電話での相談で、直接来院も可能です。

注:遠方の方はメールの問い合わせが比較的スムーズです。
しかし、最近聞きっぱなしの方がとても多いので、必ずどうなったのかは連絡してください。

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執筆 重本 仁 監修 鳥巣 至道
無断転載禁止

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